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シキホール島にて Siquijor Island 2/3

 朝6時セブシティ発の船に乗り、昼過ぎに念願のシキホール島への上陸を果たす。周囲約80km。日本で言えば鹿児島県の徳之島と同じくらいの大きさであろうか。フィリピン中部のヴィサヤ地方にあり、ボホル島、セブ島、ネグロス島、ミンダナオ島に囲まれて位置している。自治体としてはこの島だけでひとつの州をなしており、人口は8万人強。さんざん「魔の島」のような書き方をしてきたが、実際に上陸してみるとパラダイスそのものという印象である。輝く太陽、青い空と海、白い砂浜、ヤシの木、コンビニなどというものは一軒も無く、歩けば人懐っこい子供たちが笑顔で挨拶を投げかけてくれる……。しかしこの明るい光の強さが影を色濃くさせるのだろうか。このどこまでも平和な環境の中にこそ潜む特有の怪しさの予感もあった。
 実は島には日本人の方が複数人ご在住である。中でも原田さんという方が〝ヴィラ・マーマリーン(Villa MarMarine)〟というコテージを経営されており、日本のテレビでも紹介されている。日本人が経営する宿がある安心感もあってか、フィリピンの中心地からは離れているにもかかわらず日本人の訪問者も多いとのこと。筆者も例に漏れずこのマーマリーンにお世話になった。直前に予約を入れたにもかかわらず快く受け入れていただき、しかも「オカルトの取材で……」という筆者のリクエストにも応えてくださった。宿に着いて筆者が何も言う前から現地のスタッフの方が島で一番ポピュラーなボロ=ボロ・ヒーラー(Boro-Boro Healer)であるコンシン・アチャイ(Consing Achay)さんをご案内下さった。筆者はバイクを借りてすぐにアチャイさんのところに向かった。日本の免許を持ってさえいればバイクを貸し出してくれるのだ。
 荒れた路面に面食らいながらもボロ=ボロの家に着いた。そこは山の稜線の上の開けた場所にあり、非常に気持ちがよいところである。日本的に言えばここが「イヤシロチ」ということであろうか。場所は素晴らしいのだが、このボロ=ボロの家は情緒の面で問題があるといえばある。というのも下世話な話、このボロ=ボロのお母さんが人気ヒーラーとしてかなり稼ぐので、息子さんやお孫さんが「お母さんが生きているうちに……」と、ヒーリングの治療場のま隣にカラオケバーを作ってしまったのだ。非常に神秘的な雰囲気あふれるボロ=ボロなのだが、タイミングによっては大音量のカラオケを聴かされながら施術を受けなければならないのだ。
 前後するがボロ=ボロについて説明しなければならない。「ボロ=ボロ」はシキホール島ではポピュラーな民間療法である。ある意味シキホール名物と言えばボロ=ボロと言ってもいいだろう。使う道具はコップと石とストロー状の植物の筒。石の入ったコップに水を注ぎ、それを患部に当てがい、ストローを用いてヒーラーがブクブクと息をコップの中の水に吐く。石が踊ってカラカラと音が鳴る。すると体の中の「悪いもの」が水の中に移り、コップの中の水が濁り、ごみが浮く。これを数度繰り返し、水が濁らなくなったら「悪いもの」が取れたということになる。
 筆者は旅行前からやや便秘気味であったため、まずは腹部をやってもらった。便秘という理由が理由だけにそれこそ見る見るうちに水が茶色く濁ってゆくのを見て何とも言えない申し訳ないような気持ちになったが、水を捨てるのを2度繰り返し3度目のブクブクでは水は濁らなくなった。最後は患部に薬草を漬け込んだオイルを塗り、呪文を唱えた後に息を吹きかけてくれる。このあたりも非常に神秘的なのだが、カラオケにかき消されて呪文の音が全く聞き取れず雰囲気のかけらもないのが残念であった。結果的には夜に便秘はすっかり解消されてしまった。
 せっかくだし、筆者もカラオケは嫌いでもないので、隣のバーに入り込み「俺にも歌わせてほしい」と頼み、ローリング・ストーンズの『アンダー・マイ・サム』と『アズ・ティアーズ・ゴー・バイ』の2曲を熱唱し、宿への帰路についた。
 マーマリンへの帰途、島で一番の街であるシキホールに立ち寄り散髪をした。筆者は髪が腰まで届く長髪だったのだが、ズバッと60-70cmほど切った。フィリピン行きを決めてから髪を切るならシキホール島と思っていたのだ。というのも「髪はシキホールの魔女に売っちゃったよ!」というジョークをマニラで待つマリゼルに話すためである。
 マーマリンへと戻るとコテージのオーナーである原田さんから夕食のテーブルに招いていただいた。筆者のオカルト質問攻めに嫌な顔もせず丁寧に応えてくださり、島の歴史や心霊スポット、島に点在するヒーラーをご案内いただいた。もちろん惚れ薬のありかも……。夕食後はスタッフのマイケルさんとエリックさんを紹介していただき、引き続き島の歴史や子供の頃おばあさんから聞いたという怪談を話していただいた。ブラックマジックに関しても、しつこく食い下がって魔術師の居場所を問いつめたものの「あるとは聞くけど島の人でもよくわからないんだ……」と濁された。ブラックマジックに関しては島の中でもタブーとされている雰囲気を感じた。
 島の歴史とオカルトという点では、島民自体が自衛のためにオカルト伝説を利用した面もあるとの事である。古くは異教徒から島を守るため、今もなお都会に出て「シキホール出身だ」と言えばどんなギャングも怖がって手を出さないとのことである。また今もシキホール島の名物のひとつとして蛍が群生していることがあるのだが、古くはそれこそ無数に蛍が居り、対岸のドゥマゲテから島全体が燃えてるかのように見えたことから、フィリピンを占領していたスペイン人をして「火の島」と呼ばれ恐れられたという。「シキホール島=オカルト」と言われる事に関して、島で生活する彼らが半ば苦笑、半ばプライドを以て応える事が印象的であった。「まんざらでもない」といったところであろうか。

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