15780617752_018bcb5cbb_h-900x300

バナハオ山(Mt. Banahaw)その2/5

聖なる滝にうたれて

 キナブハヤン・カフェで荷物を下ろし、早速巡礼に向かうべく張り切ってマスターのジェイさんに「巡礼に行きたいねんけど」といってみるとジェイさんは「巡礼?そんなものはないよ」と一笑に付されてしまいました。「そんなもんはないからここ(ツリーハウス)でゆっくりして」と。なぜかビバリーも「ほれみてみ」的な感じでニヤニヤ笑っています。なんでも巡礼があるのはホーリーウィーク(イースターまでの一週間)だけだというのです。しかし私としてはここまではるばる来たからにはなんと言われようととにかくサンタ・ルチアに行くしかありません。ツリーハウスでくつろげというジェイさんの声を振り切ってそそくさとサンタ・ルチアに向かいました。サンタ・ルチアまではトライシクルで行きました。
 サンタ・ルチアに着くとそこは思った通りのホーリーな雰囲気あふれるひっそりとした山間の村でした。村はほんとに静かな雰囲気で、子供達が喚いている声やトライシクルのエンジン音やクラクションも山の中にスッと吸い込まれていくようなスケールの大きな静けさに支配されている感じがあります。もちろんあのインターネットで見た三角形の中に目が描かれたサインもそこいらじゅうに立ってます。小さな教会らしき建物もそこかしこに何軒もあり、この教会のひとつひとつが付近に集まっているという新興宗教の本拠地ということなのでしょう。村に入ってすぐの広場には売店があり、アンティン・アンティンという三角形に切った木片に目玉を埋め込んだ当地名物のお守りが多数売られています。もちろんその他ハーブを用いたお守りなんかもたくさんありました。「ついに来た!」そんな喜びで胸がワクワクして仕方がありません。

 ビバリーとそう広くもないこの村をブラブラと散策しながらキナブハヤン巡礼のルートを探しました。村をブラブラすると広場にあったものの他にも数軒のお土産屋さんがありました。その中でも村の入り口から右のほうの奥に進んでいったお土産屋さん辺りでお菓子を買って食べたりアンティン・アンティンを物色したりしていると、ビエンさんという方が「この谷を降りたところに滝がふたつあるから見に行きませんか?」と声をかけてくださいました。なんでもかなりホーリーな滝だということでしたので「早速ホーリープレイスが出たな」と思い、一も二もなく案内してもらいました。私は軽く考えていたのですがこの谷を降りるというのがちょっとものすごくて、階段は整備されているものの、も〜それこそものすごく階段を降りなければならないのです。ものすごく降りるということはすなわち帰りはものすごく登るということですが、その苦難を推してでもこのホーリーな水が必要なのか、滝で汲んだと思わしきペットボトルに入った水を抱えて息も絶え絶えで階段を上ってこられるかなりお年を召したおばあさんとすれ違います。この滝のホーリー具合は相当なものなのでしょう。
 私はこれだけ行くんだから落差200mみたいなものすごい大瀑布が雄滝&雌滝といった感じで眼前にそびえ立つのを勝手に想像していたのですが、実際に着いてみると滝の姿は想像していたのとかなり違っており、大きさとしてはかなりささやかで、ひとつは頭上1m足らずの木の根から水がシャワーのように滴ってくる滝、ひとつは崖の裂け目から水が噴き出している感じの滝でした。私が考えていたスペクタクルな感じとは全く違ったのですが、その違和感によって逆に感動がグッと胸に迫ってきました。このダイナミックじゃない感じがイイ。ホーリーっていうのはこんな感じなんやな。と。
 ビバリーとともに写真を撮ったり水を浴びたり飲んだりしてひとしきり遊んだ後、あらためてビエンさんに「なるほど、わかりましたわかりました。ここがキナブハヤンへの巡礼のスタート地点なんですかね?」と尋ねてみました。しかしながら、答えは「特にそういうわけではありません」とのことでした。では一体巡礼はどこからスタートしてどうやって行くのがよいのか?たたみかけると「この時期に巡礼はありません」とキナブハヤン・カフェのジェイさんと同じ答えが返ってきました。
 はぁ?みたいな。っていうかなにそれ的な。俺ははるばる神戸くんだりから飛行機乗って来てんのにどないなっとんねんっていうね。みるみる気落ちして拗ねてゆく私を見てビバリーは「また始まった」といった感じで大冷笑。ビエンさんは見るに見かねて……というのでもないのでしょうが、巡礼かどうかは別にして明日この辺り(サンタルシア)からキナブハヤンまでのいろんな名所をガイドしますからまた明日あらためて来てくださいといってくださいました。ちなみにというかもちろんというか、復路の上りの階段は地獄でした。