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治安のこと

 先日『牢獄処刑人』なるフィリピン映画を見ました。ものすごいおもしろい犯罪モノの映画で、新感覚クライム・スリラーとも評されています。音楽もJuan De La Cruz Bandの『Pinoy Blues』や『Maskara』のカバーバージョンが使われてたりしてもう最高。Juan De La Cruz Bandにはあのスピード・グルー&シンキにも在籍したジョーイ・スミスさんが在籍しておられました。Juan De La Cruz Bandにも思うところはあるのですが、その話はまた改めさせてください。ともあれ『牢獄処刑人』なのですが、日本人の我々にはちょっと考えられないような「殺しのシステム」がストーリーの軸になっています。なんでも実話を基にしているらしいのですが、私は信じられなくてあの話は本当に実話かと現地の友人に訊いてみたところ「あぁ。よくあるはなし」と軽く言われてしまいました。『牢獄処刑人』は今後も二番館や名画座をこまめにチェックしているとかかることもあると思いますので機会があれば見てみてください。もちろんレンタルでもあると思います。

 フィリピンは素晴らしいところだと思いますが、問題点のひとつに治安の悪さが挙げられるでしょうか。先日もシリアで二人の日本人の方が殺害されましたが、実は日本人が海外において一番多く殺害されているのがフィリピンともききます。たしかにアジア有数の犯罪大国というイメージは拭えません。
 私もそう思っていろんな統計をあたってみたのですが、数字からも日本に比べればは治安は悪い感じはありながらも、全世界的にみればフィリピンがそう際立って悪いということもないのかなという感じもします。例えば『グローバルノート』という統計サイトの殺人発生率の項(※1)を見るとフィリピンは70位です。東アジアでいえばミャンマーが33位、モンゴルが63位ですからフィリピンがダントツで悪いというわけでもないかと思います。ただ日本は215位ですから、フィリピンの治安が悪いというよりも、日本の安全度の方が際立っているのかなとも思います。ちなみにタイは104位、台湾が138位、韓国が195位です。
 しかし統計は統計として、マニラに降り立ってすぐに多くの人が日本にはないヤバい感じを感じるというか、市中に漂う数字には現れようもない重い緊張感を肌から感じるのではないでしょうか。

 かくいう私もなんどか、2〜3度ほど恐い目にあったことがあります。一度はセブ・シティのマンゴーアベニューの近くで子供の集団に取り囲まれ、ウエストポーチからiPod touchを抜きとられてしまいました。私が道端で「盗られた盗られた!」とさわいでいると「あなたしってる」と日本語で声をかけてくれる人が……「デートインエーシャやってるでしょ」と。なんと彼女はDate in Asiaの常連さんで私のプロフィールを見たことがあるとのことで声をかけてくれたのです。このときばかりは私も顔が売れてるなと自分自身に感心しました。この方はいわゆるセミプロの方らしく「ホテルまで行くから後で電話してきて」とも言ってくれましたが、私は大事なものを盗られたすぐ後でそれどころではなく、丁重にお断りさせてもらいました。それはそれとして、その方が警官が立っているところまで案内してくれました。iPodが戻ってこないのはわかっているのですが、保険の請求のため警察で調書を書いてもらわなければなりません。
 オスメーニャ・サークルにほど近い警察署で調書を書いてもらうのですが、この警察署の中がまたけっこう恐ろしいのです。手錠をかけられた犯罪者が署内に次から次へとどんどん連れ込まれてきており、また調書を書いてもらうところから丸見えの場所に絵に描いたような檻があって、そのなかにもだら〜んとうなだれた女性が放り込まれていたりしていてとにかく尋常ではない雰囲気なのです。かと思えば全く関係ないタクシーの運転手の方が顔見知りの警察官の方と雑談をしに来ており、私が日本人と知るや調書作成中に割って入って「実は日本人の彼女が静岡にいるのだが、忙しいと言ってなかなかこっちに来ない。どう思う?」とかなりばくっとした恋の相談をもちかけられたりともう大変。
 また調書作成中に別の警官の方が「どうしたん?」みたいな感じで割り込んできて「スリやと!どこや!どこでやられたんや!」といった具合に激昂して再度私をバイクに乗せ、現場にとんぼ返りしてバイクに乗ったまま周辺の聞き込みを延々と始める始末。私はとにかく保険会社に出すペーパーがあればいいわけですから「もうええねんけどな」と思いながらもせっかくの親切を断るわけにもゆかず、愛想笑いしながらおまわりさんのバイクの後ろに座っているしかありませんでした。おかげでマンゴアベニューあたりのちょっとヤバい感じの裏路地見学はできましたが。後で気づいたのですが、この後から来られた警官の方は私に親切にすることによって私から何かを引き出したかったのだと思います。この場合私は被害者ですから賄賂っていうわけでもないんでしょうけど、ちょっと心づけをしてもよかったのかなと後になって思いました。鈍感ですみませんでした。
 本当は正式なレポートは翌日の朝セブ市の政府にある本部みたいなところに行って改めて受け取らないといけないらしいのですが、翌日朝早くマニラに戻る必要があったのでそんな時間はありません。保険の請求にはオリジナルの書類が必要だと思ったので特別にお願いしてそのオスメーニャ・サークルの警察署で同じ調書を二枚書いてもらい、保険屋さんに送りました。保険は無事おりました。ちなみに保険はクレジットカードについているものを使いました。一部でもよいのでクレジットカードで旅行代金を支払っておくとカードに付帯する保険が有効になる場合も多いのではないでしょうか。旅行にお出かけになる前にお手持ちのクレジットカードの旅行保険の条件をご確認されることをお勧めします。

 もう一度はマニラのエルミタのEDZENなどの両替屋さんが密集している辺りで「ハイレートで両替するよ」と声をかけられ、訊けばたしかにレートが良かったのでホイホイついていったところ変な小部屋みたいなところに閉じ込められて手品そのもののトリックでお金を騙し取られそうになりました。この時はハナから警戒していたので一度数えたお金を用心のためもう一度数えようとしたところ、おばさんが「ミスター!ダイジョブ。ストップ!」と激しい感じで数えるのをやめさせようとしてきました。私はとっさに自分が渡したばかりの円を相手から掴み取り、相手が私に渡したペソと取り返した円を両手に掴んだ状態で「ワレ、これどういうこっちゃ?」と日本語でキレてみたところ「何かの間違いです。とにかくペソだけは返してください」と懇願してきたのでペソを返してあげるとおばさんはぶつくさ言いながら部屋を出てゆき、私もなんとか事なきを得ました。

 細かいことではマニラの空港で掃除係の人に「喫煙室に案内してあげるよ」といわれてついていったらトイレの奥の用具室みたいなところに閉じ込められ「チップチップ」とお金をせびられるということを私も体験しましたし、同様の被害を他の人から聞いたこともあります。
 渡航歴がそう多くもない私でもこのような目に遭っておりますし、現地の友人たちも名々に多少なりともいろいろな犯罪被害には遭った経験を持っているようです。旅行者である私よりも現地の人たちの方がずっと警戒心が強いですし、皆のんきな私を心配してカバンの持ち方や道の歩き方などをよく注意してくれます。日本人の知人にも昏睡強盗にあったという人がいます。

 私は怪談が好きなのですが、怪談界でご高名なケンシンさんという方がフィリピンのハーフの方で、フィリピンの怪談をけっこうご披露されています。怪談もバラエティーに富んでいてかつクオリティーが高いのですが、同時に「怪談以外の話も怖すぎる」として有名です。この怪談以外の話というのはケンシンさんが学生時代を過ごされたフィリピンでのワイルドな日々の話で、敵対する陣営から鉈で襲われる話や目の前でM-16での撃ち合いが勃発した話など、日本では考えられないようなダイナミックで荒々しい話の数々に驚きます。(※2)

 外国人相手の犯罪には身代金目的などの単純な犯罪もあれば政治的な犯罪もあります。古くは左翼ゲリラに誘拐された若王子さんの事件は大きなニュースになりました。最近ではミンダナオ島での反政府ゲリラの動きが活発なようです。今も日本人の方が一人捕らわれているとの話もありますが続報が入ってきません。中東のISISとの連携を表明するグループもあり、犯罪だけでなく、テロ活動への警戒も必要でしょう。

 以上すこし怖い内容になってしまいました。フィリピンは素晴らしいところではあるものの、危険を避ける心がけや工夫は必要といえると思います。危険は注意して避けようと思えば避けられるものも多いとおもいます。少し面倒ですが、フィリピンにおいて楽しい旅行のためには用心を心がける必要があるかもしれません。

 ※1)『グローバルノート 殺人発生率 国別ランキング統計』http://www.globalnote.jp/post-1697.html

 ※2)『オカルトいどばた会議 第9回』http://okabata.blogspot.jp/2011/12/9_12.html

在フィリピン日本国大使館 — http://www.ph.emb-japan.go.jp/index_japanese_version.htm